9 田口二郎著『山の生涯』−来し方行く末−(上/下)茗渓堂(19992000

  定価 /下各7500円  

著者田口二郎に関しては別掲4.6.を参照のこと
 待ち望まれたこの上/下二巻の大冊の著作集が遂に世に出たのは著者没後のことだった。前
述の通り、老登山家が旧稿を集めて出版するというスタイルには当初消極的だった著者だが、
その晩年には、数々の山の名著の編集で知られる大森久雄氏や甲南山岳部の後輩の平井吉夫
らの熱意もあって大いに乗り気になったという。結局一周忌を迎えた頃の上梓となったのは
残念だったが、出版されるや山岳関係各誌が賞賛の書評を掲載している(「山岳寮」第55号
2000年を参照)。
  書評に付けられた見出しのいくつかを紹介しておきたい。
山と渓谷:「アルピニズムへの深い洞察。田口二郎氏の遺稿集刊行」池田常道氏
山の本:「近代アルピニズム興隆期の足跡」遠藤甲太氏
読書人:「“山の知識人”が息づく 後世への贈りものとなった遺稿集」近藤信行氏

 上巻は第一章「青春の山」“甲南の山登り”で始まり、続く「スイス時代」はかつて深田久
弥が絶賛した“回想のヤング尾根−1943年7月―”で始まる。 以下「山の随想」「山の
本」、下巻では「マナスル」「山の人たち」「異国にて」「来し方行く末」の各章へと続く。
 編集者のひとり大森久夫氏は著者にもっとスイス時代のことを語らせるべく、口述筆記の
段階までゆきながら、「田口さんは、やはりあれはだめだ、と反応をにぶらせてしまったので
す。」と残念がられた。著者の口の堅さには、戦時中のスイスでの登山三昧への自責の念と、
彼の地での兄一郎の客死の影があったことは間違いないと思われる。
 それでもなお、“スイス・思索と読書の四年―回想・笠信太郎−”、“ツューリヒ今昔”、“終
戦身辺”、“チトーのユーゴをいく”など、第2次大戦下スイスに滞在し終戦を朝日新聞支局員
としてチューリッヒで迎えた著者ならではの文章もあり、山関係以外の読者にとっても貴重な
体験談であろう。


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